頭痛に悩んでいた美人で評判の旅籠の娘「お六」は悩み続けていた持病の頭痛を治したい一心で御嶽山に詣で願をかけた。
そしてお告げに従って「ミネバリの木」で作った櫛を使い朝夕に黒髪を梳いてみたところ不思議なことに病は全快した。
そこでお六は、この御利益を同病者にも分け与えようと願い「ミネバリの木」で作った櫛を売ってみた。
すると中山道の難所・鳥居峠を越えて行き交う東西の旅人の間で評判となり木曽路・薮原宿の名産「お六櫛」として全国的に知られるようになった。
そんな伝説が語り継がれてきました。
木曽郡木祖村薮原は、豊富にあるミネバリの木を材料としてこのお六櫛を、約280年まえよりつくってきました。
お六櫛の材料になるミネバリの木は、カバノキ科の落葉高木で成長がとても遅く1ミリ太るのに3年かかると言われています。
それだけに目の詰まった木質となり、斧が折れるほど堅いことからオノオレ(斧折れ)カンバの名を持ちます。
その堅さゆえ、印材やソロバン玉、ピアノの鍵盤などに使われてきました。堅さのほかに独特のネバリが特長で、精緻な梳き櫛の材料として、他のどんな木材よりも優れていいるといわれています。
お六櫛はこのミネバリの木を材料に職人が1つ1つ精緻な手仕事で仕上げてゆきます。
伐採されたミネバリはすくに加工するのではなく、原木のまま3年、板とりした状態で10年保存し、十分過ぎるほどの時間をかけて乾燥させて木のくるい(曲がり)をとった後に加工を行います。
「粗鉋(アラシコ)」、「上鉋(ジョウシコ)」と呼ばれる2種類のカンナを使い櫛の形を整えてゆきますが、普通の大工カンナが板を真平らに削るように歯を仕込むのに対して、両歯のお六櫛は中央部にしのぎ(稜線)を残しつつ、ゆるやかな弧を描くように削ってゆきます。職人の熟練を要する仕事です。
お六櫛の歯数は一寸(約3cm)に29〜42本と細かく、普通の鋸でこれだけ細かい歯を挽くことはできないので、歯を挽く「歯挽き鋸(ハビキノコ)」も全て職人が時計のゼンマイを削り自分でつくります。
歯挽き鋸で櫛歯を挽いた後は、櫛の使い心地を決定づけると言われる梳き歯の歯先を「とくさ」という天然素材のヤスリで丹念に仕上げてゆくのです。
こうして1枚のお六櫛が仕上がるまで、ミネバリの成長から職人の手仕事まで、気の遠くなるような時間と手間が掛けられているのです。
お六櫛は親子3代に渡って使えると言われるほどの名品です。ご縁のあったお客様には是非一度お手にとっていただき、この豊かな梳き心地を試していただきたいと思います。
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